平成19年9月1日の連歌作品

(初折 表)
みこころや里廻にかけて春霞

梅ふくいくと幸ふる宮 善帆
東風々に委ね外山の香に満ちて 伏木
見ぬ隙にさへ季(とき)のうつろひ みのり
行く水にそふか衣手いそぐらむ 欣子
駒もしずかに夜半の継ぎ橋 玖那
月今宵ましてや影の美しく みのり
真玉をこぼす萩のひとむら ゆきこ
(初折 裏)
一院の寂を深むる鉦叩
祭りの笛も秋空に舞ふ 玖那
初雁の名にちなみたる城跡に 泥舟
君の姿をさがし求めて
聞きやれば涙のごとき夜の雨 善帆
濡れし小袖を伏籠にひろげ
細道に小さき鎌の錆びたりな 玖那
むかし平家の裔ぞ住みけり 泥舟
椎の葉は実になほ遠く茂るのみ みのり
啼けほとゝぎす月は山の端 欣子
伝へ聞く宿はいづこにあるやらん
壁や柱に浮かぶ面影 泥舟
花嫁の父と呼ばれし春愁ひ みのり
雛納めのをりのひとこと
(二の折 表)
あたたかき朝ゆうべの家の風 欣子
紅緒の下駄の二つ並びて 泥舟
文使い禿かむろと呼び出され
にぎわひつどふゑびす橋筋 玖那
水明り日は短くも暮れ落ちぬ みのり
行火懐けば昭和思ほゆ 浜菅
急須より注ぎし緑茶に丸き卓 善帆
翁と媼いともすくよか 純女
相見しはさる御社(おやしろ)の蹴鞠会
四本懸りの楓の揺れて 善帆
月もはや大内山の東に 欣子
行き片示す案山子黙せり 玖那
思ひきや家を捨てむの秋袷 みのり
縁の糸の新所帯 泥舟
(二の折 裏)
川風にふかれて凉しその畔
右へ左へ蛍追ひつつ
日記帳けふの暑さに筆とれず 玖那
旅にしあれば誰をたのまむ 欣子
さるほどに国司の従者の迎へ来て
家にゆかりの太刀はくはいま 泥舟
雪水に身をば鍛へし技の冴え 伏木
越後は布を晒す冬の日 みのり
いやさかの都は装ひ雅かに ゆきこ
慕へる方は雲の上にて 正純
銀泥の夢のつづきや朧月
覚めてうべなふ「春は曙」 みのり
願はくは鳥をうらやみ花と過ぐ 善帆
深山がくれにわびて住まばや みのり
(三の折 表)
狭筵に十便十宜図くりひろげ
咳気(がいけ)ありなし夜寒ぶ初む頃 ゆきこ
空澄めど胸の痛みは今もなほ
この身に沁みて標結ふばかり 欣子
玉垣に紅葉かつ散る幽けくも
消ぬべき色を残すあはれさ みのり
まづ知るは涙なりけり恋衣 欣子
幾たび歩む香久山の裾 玖那
はにやすのこころやすらふ池の跡 ゆきこ
夕立すぎて夏ぞ忘るる 欣子
語り継ぐ「命どぅ宝」沖縄忌
何にも増して幼子の笑み 善帆
とまやには飯たくけぶりさしまねき 玖那
月光冴えて囲炉裏のほとり 欣子
(三の折 裏)
梟かあれ狐の声も村はづれ みのり
落ちてゆく身は音にも怯え
検非違使の太刀勇ましく粟田口 玖那
仰仰しさよ文をやるにも ゆきこ
恋死なむとばかり告げよ天つ風
枕のみ知る露の明け方 欣子
塞がりて長夜たのみの方違へ 正謹
秋の出水の川止めも憂し みのり
国魂のなゐ震(ふ)る里に霊験(しるし)あれ 正謹
いのる言葉も連ね歌なる ゆきこ
老の坂手を取りて行く二つ影 玖那
おぼろ月さへ怖じる落武者 正謹
散る花にしばし駒止めふり仰ぎ
くれゆく春のかすかなる色 善帆
(名残折 表)
ふるさとを恋ふる袂に海近み 欣子
八重の潮路を想ふをりしも
人逝きて我から喪にぞ暮しつつ みのり
狩の宿りを訪ふも久しき 正謹
旅枕霰たばしる草に伏し
明日こそ子等に邂逅はむと 信也
門口にたたずみいるももどかしく 玖那
叩かば開く神の国なる みのり
疚しきは自ら去れと大臣言ひ 正謹
そしてだあれも居なくなる秋 ゆきこ
送り火も果てて残るは月ばかり 英夫
京は都に聞くも鈴虫 欣子
一筋の萩の上風露散らし
宿りせし影行方知られず 正謹
(名残折 裏)
言の葉の浮かびつ消えつ句づくろひ ゆきこ
長手いとはぬ道を旅して みのり
思はずも虹くきやかに里山に 欣子
白鷺あそぶ水面(みなも)凉しき
夕されば魚も互みに寄り添ひぬ 正謹
うましおぼろ夜夢に泣かばや みのり
残り香の花見るまにも移ろひて 欣子
妹背百年うららかな春 正純