平成19年10月3日の連歌作品

賦 何水連歌

(初折 表)
行く雲や秋は空よりあらはるる みのり

栗の実はぜる山のもてなし 康代
駒すすめ紅葉の庵をたづねきて 隆志
いとど貴なるひとさしの舞 善帆
かむさびてとうとうたらりとうたらり 欣子
初芝居跳ね楽屋口より
そぞろ来て朧月夜の橋の上 玖那
萌ゆる柳に滲む街の灯 正謹
(初折 裏)
見晴るかす苔むす岩根城の跡 康代
こごしき道を踏みて旅する みのり
この度は供勢少なく仰せられ
文遣わせしかの姫のもと 正純
笛つよし熱きこの胸伝えばや 善帆
かぐはしき香をはこぶ涼風 康代
夕餉時子等呼ぶ声のそこかしこ 正謹
いまにかへらぬ古き良き頃 みのり
思い切る明日の行方は知らずとも 玖那
かすかな昼の月を導(しるべ)に ゆきこ
海原を行くかりがねぞ聞こゆなる 康代
うつつうつし身秋惜しむ頃 自然坊
みずくきにあやなく匂ふ花の春 欣子
軸はいづれに炉塞ぎの庵 善帆
(二の折 表)
雨一日(ひとひ)弥生つごもり降りやまず
二人でけふは小半(こなから)の酒 隆志
みなひとの羨(ともし)ぶほどに相老いて みのり
世のあれこれは風に任せむ 正謹
ほんのりと頬染め語る夢の夢 康代
新手枕は外国(とつくに)の宿
すずろはし白土天井石の床 正謹
ちちろひとつが琥珀に透ける みのり
火の山の怒り鎮まる秋巡礼 康代
フニクリフニクラ大いなる月 ゆきこ
尖塔も宙を舞ひそなカンタータ 英夫
皆かしこまる其のもんどころ 正謹
移り気な民の意も調へば 信也
雪降り積もり大地眠らす 康代
(二の折 裏)
行き悩む道の難儀に荷を捨てて みのり
あすのことども旅は鼻歌 玖那
さりながら平かなれとのみをこそ 欣子
飽かぬわかれを君がためとて 正謹
これや恋否恋よりも更ならむ ゆきこ
安達ヶ原の清き夕映え 康代
陸奥にあどけなき夢見する里 正謹
しとど汗かく昼寝ひととき 玖那
音の良き切子ふうりん藍深し 康代
いとも涼しき水底の月
才あれば財はいらぬと嘯きぬ 正謹
卒業の子ら大志果てなく
としのはに散りけむ花の情けあり 康代
小袖かざして春風に舞ふ 玖那
(三の折 表)
かたみとて色をも香をもなつかしみ 敦子
道具は語るその人となり 正謹
辞めますと唐突に書く三代目 正純
今とはかりにだにやはしらず
毛の国の名残の舞いやしろばんば 泥舟
かけゆくスキーの跡をたどりて 玖那
銀漢の冴ゆるヒュッテに火をかこむ みのり
尽きせぬ思ひのせる歌声 正謹
ささやきは嬉しむごとく泣くごとく ゆきこ
憂き身知らでや慕ひ初めにし
風の音月影にさへ目を伏せて 正謹
宝やいづこ茸狩りの山 みのり
盗人(ぬすびと)の不覚の嚏(くしゃみ)そぞろ寒 ゆきこ
寝た刃の鞘に露もふるへぬ。 玖那
(三の折 裏)
ゑのころがふと耳立てる鐘撞堂 康代
灯一つが階を来る 泥舟
空薫のいづくともなくただよひて 欣子
源氏香とや巻の名ゆかし
なほをかし祭りを飾る葵草 康代
もろびとこぞる都大路に 玖那
言挙げの大臣に民は見えざるや 正謹
霧にまぎれし美しき国 康代
吹くだにも風身にしむる有磯海
月に雁(かりがね)数ぞ読まるる みのり
をりをりのもののあはれをやまとうた 正謹
面影だけを残す過ぎ来し ゆきこ
たぐひなき君がつまどふ花の下 康代
霞か雲かまごうことなき 玖那
(名残折 表)
またひとつ廂こえゆくしゃぼん玉
こなたかなたとあてぞなき旅 たかし
汽車はゆく今は山なか今は浜 正謹
鳶が輪を描く広き国原 康代
子等はみないぢめられるないぢめるな みのり
乙女の笑みもこぼるる店に 玖那
にはか雨濡れし肘笠乾く間を
逆らひがたし誘ふ湯煙 康代
うろつきし猿よ何処に消えやらん たかし
狸は木の葉に経写す夜半
夕されば振袖かなし黄八丈 玖那
あかねの空に来し方思ふ 善帆
常しへにいざよふ月はためらひて 康代
塚は静かに風の身に入む 正純
(名残折 裏)
舫ひ綱解きて漕ぎ出す野分晴
そびらの峰にしるべなる庵 たかし
もろこしの香り漂よふ坂の町 正謹
かそけくきこゆ衣ずれのおと 玖那
ふるごとの書読みすすむ静か夜の みのり
いつしか更けて如月の雨 ゆきこ
花ごとにいそぎあふ頃あはれなる 敦子
まどゐたのしき春風の中 英夫