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百千鳥来て鳴き交はす朝 |
正謹 |
ここち良き東風もいつしか吹き寄せて |
淳 |
夢もろこしへ若きらの船 |
正謹 |
色深く遙かにつづく水脈のあり |
淳 |
島の生活(たつき)のなべて豊に |
正謹 |
雲も去りかくることなき望の月 |
淳 |
隈を求めし虫よるべなく |
正謹 |
(初折 裏) |
草の露踏みて行き触る旅の道 |
隆志 |
かえりみる峰袖も濡るるか |
みのり |
別れ来て過ぐる幾年髪白き |
淑子 |
古りし鏡のうち重なりて |
欣子 |
夢に見し都現はる埴の下 |
正謹 |
五月雨明くるときを待ちをり |
淳 |
信濃路はからまつ林若葉して |
正謹 |
雀を呼ばふ翁出で来ん |
淳 |
月まどか子等の芝居を見守りぬ |
正謹 |
芋煮の宴村はひとつに |
久美 |
もちよりし酒にまじれる濁酒 |
石猿 |
醸せし神のけしき覚ゆる |
正謹 |
青空にまばゆき君の花衣 |
とくとく |
そよ風光る初恋の丘 |
淳 |
(二の折 表) |
破れ家に残るふらここ揺れもせず |
正謹 |
地震の傷跡消えぬ裏町 |
みのり |
いつよりか犬の親子の住みつきて |
欣子 |
古りて由ある地蔵ほほ笑む |
正謹 |
肩までも降り積む雪をしとねとし |
石猿 |
生い立ち語るよき為人(ひととなり) |
正謹 |
朱鷺の雛茂る葉越しに月明かり |
裕雄 |
足掻きは夢の宙(そら)翔くるらん |
正謹 |
うたかたの消えては結ぶ流れ川 |
みのり |
募る思ひのせきとめがたく |
欣子 |
山男飽かず高嶺の夢語り |
正謹 |
霧晴るることなく暮れてゆき |
淳 |
ものあはれもみぢ踏み分け訪ふ宿り |
正謹 |
鳴く鹿の声遠くきこゆる |
淳 |
(二の折 裏) |
夢路より現に返す時の鐘 |
正謹 |
胸に一つの秘め事のあり |
みのり |
よすてびと尾の上の松をふり仰ぎ |
隆志 |
欲しいままなる盃と笛 |
欣子 |
めぐり来て映せよ庭の水鏡 |
淑子 |
客人を待つ蹲の庵 |
隆志 |
半蔀の内に円居の影さして |
正謹 |
夜は明け易し尽きぬ語りに |
みのり |
いとしさの未だ残れる袖の色 |
淑子 |
旅立つ船に寄せる初潮 |
隆志 |
月ありて見晴るかす空清らなり |
正謹 |
遠くかすかに砧聞こゆる |
淳 |
たらちねの米寿ことほぐ花の舞 |
欣子 |
諸白の香にけしきのどむる |
正謹 |
(三の折 表) |
よもやまの春に背きて故郷を出ん |
みのり |
せめて頼るは妻のふところ |
淑子 |
三つの内二つを持たぬ男にて |
隆志 |
ひねもすのたり舟をゆりかご |
正謹 |
外つ国の涼しき風にあたりをり |
淳 |
香も送りなむ玉章に載せ |
隆志 |
良き人のありやなしやと思ひ兼ね |
鎌倉太郎 |
幸住まふてふ深山訪(と)ぶらふ |
忍冬 |
比叡路は花野露けき十三夜 |
みのり |
秘仏を埋む虫の声々 |
淑子 |
世の常のあはれ知らする風の色 |
正謹 |
ふたたび寄する敷波を待て |
石猿 |
立たずがな立たばおろかと人や見ん |
みのり |
とある日の暮れ確かなる虹 |
欣子 |
(三の折 裏) |
ひたすらに掻くビオロンの響ききて |
正謹 |
しのぶ俤深きためいき |
みのり |
年々に日の過ぐる時早くなり |
隆志 |
紅葉散りゆく庭のはかなさ |
淳 |
破れついぢ邯鄲の声消えがてに |
正謹 |
夢の覚むればただ霧の中 |
淳 |
月を傘裳裾濡らして渡る橋 |
欣子 |
過疎の通ひ路閉ざされんとす |
みのり |
予算たて新幹線を通すらし |
淑子 |
松や柏は千年の青 |
隆志 |
たまゆらの花くれなゐをいとほしみ |
みのり |
四国めぐりも徒歩より行かん |
正謹 |
観覧車春のビル街見下ろして |
欣子 |
霞に浮かぶ武庫の峰々 |
隆志 |
(名残折 表) |
丈高く居住まひ清き歌の主 |
正謹 |
木霊言霊杜深うして |
みのり |
いつよりか神の泉の湧くところ |
淑子 |
築地に返へる水のかがやき |
欣子 |
心掛く人を訪ねて石畳 |
隆志 |
白き病棟山の手に建つ |
みのり |
地震のあと諮り尽くして創る街 |
正謹 |
あのさはやかな風よみがへれ |
石猿 |
黒髪のなびく乙女の夢を見て |
隆志 |
さめては夜寒何に酔ひ泣く |
みのり |
言ふなかれ生き死にのこと後の月 |
欣子 |
語り途切れて鈴虫の声 |
正謹 |
ゆくりなく降りて過ぎゆく初しぐれ |
みのり |
一樹の蔭に宿る幸せ |
隆志 |
(名残折 裏) |
ばばさまの石の佛になりきって |
欣子 |
供物うれしき子らも寄り来る |
淑子 |
手を出せば雲居に届く山開き |
正謹 |
はるけき方へ風わたりゆく |
ヒサ子 |
色深く綿の海原とよみして |
石猿 |
つと舞ひ上ぐるひとひらの蝶 |
淳 |
垣間見る庭に若木の花を見て |
隆志 |
宮うららかに弥栄の郷 |
淑子 |