平成12年3月31日の連歌作品

(初折 表)
春雨やいとどうるほふ歌の里

百千鳥来て鳴き交はす朝 正謹
ここち良き東風もいつしか吹き寄せて
夢もろこしへ若きらの船 正謹
色深く遙かにつづく水脈のあり
島の生活(たつき)のなべて豊に 正謹
雲も去りかくることなき望の月
隈を求めし虫よるべなく 正謹
(初折 裏)
草の露踏みて行き触る旅の道 隆志
かえりみる峰袖も濡るるか みのり
別れ来て過ぐる幾年髪白き 淑子
古りし鏡のうち重なりて 欣子
夢に見し都現はる埴の下 正謹
五月雨明くるときを待ちをり
信濃路はからまつ林若葉して 正謹
雀を呼ばふ翁出で来ん
月まどか子等の芝居を見守りぬ 正謹
芋煮の宴村はひとつに 久美
もちよりし酒にまじれる濁酒 石猿
醸せし神のけしき覚ゆる 正謹
青空にまばゆき君の花衣 とくとく
そよ風光る初恋の丘
(二の折 表)
破れ家に残るふらここ揺れもせず 正謹
地震の傷跡消えぬ裏町 みのり
いつよりか犬の親子の住みつきて 欣子
古りて由ある地蔵ほほ笑む 正謹
肩までも降り積む雪をしとねとし 石猿
生い立ち語るよき為人(ひととなり) 正謹
朱鷺の雛茂る葉越しに月明かり 裕雄
足掻きは夢の宙(そら)翔くるらん 正謹
うたかたの消えては結ぶ流れ川 みのり
募る思ひのせきとめがたく 欣子
山男飽かず高嶺の夢語り 正謹
霧晴るることなく暮れてゆき
ものあはれもみぢ踏み分け訪ふ宿り 正謹
鳴く鹿の声遠くきこゆる
(二の折 裏)
夢路より現に返す時の鐘 正謹
胸に一つの秘め事のあり みのり
よすてびと尾の上の松をふり仰ぎ 隆志
欲しいままなる盃と笛 欣子
めぐり来て映せよ庭の水鏡 淑子
客人を待つ蹲の庵 隆志
半蔀の内に円居の影さして 正謹
夜は明け易し尽きぬ語りに みのり
いとしさの未だ残れる袖の色 淑子
旅立つ船に寄せる初潮 隆志
月ありて見晴るかす空清らなり 正謹
遠くかすかに砧聞こゆる
たらちねの米寿ことほぐ花の舞 欣子
諸白の香にけしきのどむる 正謹
(三の折 表)
よもやまの春に背きて故郷を出ん みのり
せめて頼るは妻のふところ 淑子
三つの内二つを持たぬ男にて 隆志
ひねもすのたり舟をゆりかご 正謹
外つ国の涼しき風にあたりをり
香も送りなむ玉章に載せ 隆志
良き人のありやなしやと思ひ兼ね 鎌倉太郎
幸住まふてふ深山訪(と)ぶらふ 忍冬
比叡路は花野露けき十三夜 みのり
秘仏を埋む虫の声々 淑子
世の常のあはれ知らする風の色 正謹
ふたたび寄する敷波を待て 石猿
立たずがな立たばおろかと人や見ん みのり
とある日の暮れ確かなる虹 欣子
(三の折 裏)
ひたすらに掻くビオロンの響ききて 正謹
しのぶ俤深きためいき みのり
年々に日の過ぐる時早くなり 隆志
紅葉散りゆく庭のはかなさ
破れついぢ邯鄲の声消えがてに 正謹
夢の覚むればただ霧の中
月を傘裳裾濡らして渡る橋 欣子
過疎の通ひ路閉ざされんとす みのり
予算たて新幹線を通すらし 淑子
松や柏は千年の青 隆志
たまゆらの花くれなゐをいとほしみ みのり
四国めぐりも徒歩より行かん 正謹
観覧車春のビル街見下ろして 欣子
霞に浮かぶ武庫の峰々 隆志
(名残折 表)
丈高く居住まひ清き歌の主 正謹
木霊言霊杜深うして みのり
いつよりか神の泉の湧くところ 淑子
築地に返へる水のかがやき 欣子
心掛く人を訪ねて石畳 隆志
白き病棟山の手に建つ みのり
地震のあと諮り尽くして創る街 正謹
あのさはやかな風よみがへれ 石猿
黒髪のなびく乙女の夢を見て 隆志
さめては夜寒何に酔ひ泣く みのり
言ふなかれ生き死にのこと後の月 欣子
語り途切れて鈴虫の声 正謹
ゆくりなく降りて過ぎゆく初しぐれ みのり
一樹の蔭に宿る幸せ 隆志
(名残折 裏)
ばばさまの石の佛になりきって 欣子
供物うれしき子らも寄り来る 淑子
手を出せば雲居に届く山開き 正謹
はるけき方へ風わたりゆく ヒサ子
色深く綿の海原とよみして 石猿
つと舞ひ上ぐるひとひらの蝶
垣間見る庭に若木の花を見て 隆志
宮うららかに弥栄の郷 淑子