平成12年8月3日の連歌作品

(初折 表)
咲きいそぐ齋庭の花に冷えもがな 正謹

春よ春よと来鳴くうぐひす 得々
風うらら白帆に夢もふくらみて 久美
岬巡れば霞む島々
いつしかにゆかしき香りまさりゆき
香実(かくのみ)御手にほとけ現る 正謹
見る人の心にぞすむ秋の月 みのり
白露こぼす萩の下枝 淑子
(初折 裏)
もずの声運ぶ風良き旅枕 隆志
母思はするたおやかな峰 正謹
麓には竈の煙りたなびきて 欣子
かはり無き世に生きるしあはせ 正謹
君としも「愛の賛歌」を高らかに みのり
ことなき逢瀬もゆる太陽 欣子
潮浴びて砂に腹這ふ昼下がり 正謹
この郷関を出づべきや否 みのり
岨道を行けば真澄みの月明かり 正謹
翼連ねて鵲の橋 欣子
浜の秋昔語りを懐かしむ 正謹
潮染む笑顔にじむ優しさ 久美
心地よき東風(こち)に御髪(みぐし)をなびかせて
沈丁の香にそひ上る朝 正謹
(二の折 表)
道の辺に舞ふがごとくに蝶飛べり
ものおのづからよみがへるてふ 正謹
幾代へし御苑に水をめぐらせむ みのり
雲居の都流木の島 隆志
たまづさは空行く雁をたのむべし みのり
遠き契りは月のぼるころ 淑子
秋風に心あてなくくだりけむ 隆志
直ぐなる雨に袖濡らしつつ 欣子
塵の身を睨まふ如き雲の峰 正謹
太平洋上ひとりぼっちの みのり
手枕(たまくら)の波おだやかに星数ふ 淑子
丸き地球を遠方に見て 隆志
たぐひなき大和ごころを歌ひけり 欣子
すなほに枯れし水茎の跡 正謹
(二の折 裏)
たたづみて昔をしのぶ雪の中
餌付けされたる狸の親子 欣子
為ならぬ情けもあると目が語り 正謹
飛車角落ちし陣のせつなさ みのり
腕の鳴る夜々の戦は今昔 淑子
白髪ふたりの行く法の道 隆志
各々が皆向々の羅漢さん 正謹
名に聞く里の霧晴れ渡り
黄櫨並木うつす端山の夕月夜 隆志
寄せる初潮海面ふくらむ
産声の高きは玉の男の子なり みのり
村の長者は七夜名を練る 淑子
花をしてほまれ世に問ふ隠れ里 正謹
揖斐にのどけき歌筵あり 伏木
(三の折 表)
大川の流れをつつむ春霞 みのり
北へ北へと鶴かへりゆく 欣子
思ひ増ししじま求めし旅ならむ 正謹
忍ぶ乱れは幾そばくなる 隆志 
おごりけむ黒きみぐしも艶うせて 淳 
囲炉裏あかあか照らす語り部 正謹 
丑三つになりて吹雪もいや増さり 淳 
嵯峨野野々宮さやぐ篁 欣子 
時を得し寂聴の庵(あん)人出して みのり 
裏むらさきの墨染めの袖 淑子 
月を釣り雲を耕す心意気 隆志 
棚田色づくかくも奥まで 正謹 
「君嫁ぐ」うそ寒の日の風便り みのり 
膝を抱きつつ聞くはバラード 欣子 
(三の折 裏)
ほろ酔いのよさを楽しむ今日の宵 隆志 
思ひ満ち足り暮るゝひと年 正謹 
九重に慶び事の兆して みのり 
お壕の水の深く澄みたり 淑子 
つれづれに橋より垂らす釣の糸 欣子 
雲に洩れくる入相の鐘 隆志 
群鳥の一樹に寄りて二日月 みのり 
街の灯はつか長夜始まる 正謹 
難波潟かくも恋しく秋しぐれ 伏木 
心つくしの宴なつかし とくとく 
楽しさは老の胸にも残りゐて 隆志 
しらずしらずに手毬唄など みのり 
すたれゆくお国訛や花だより 欣子 
干菓子めしませ白酒進上(しんじょ) 伏木 
(名残折 表)
子等は皆部屋のぬくきに熟睡(うまい)して 正謹 
玉に黄金になほまさるもの みのり 
海境にとよさかのぼる朝日影 隆志 
亀に連れられ龍すむ城へ 欣子 
ひらひらと揺るるは衣(きぬ)か昆布わかめ 淑子 
まゝに惚けて松風を聞く 正謹 
ゆるぎなき見越しの富士のたしかさに 伏木 
したたり落つる汗も良からん 淳 
流鏑馬は三つの的を駆け抜けて 隆志 
どよめきわたる古き御社(やしろ) 淳 
この丘に今し聖火の燃えそむる みのり 
国境越えて月のかがやく 欣子 
法界の船より眺む秋の空 隆志 
茅渟の浦廻の雨身にしみて 正謹
(名残折 裏)
最終便発ちし俄かのそぞろ寒 みのり 
合はす襲(かさね)は縹(はなだ)の色に 欣子 
廻廊をわたる貴人(あてびと)音もなし 淑子 
ただよひきたる香のかぐはしく 淳 
旅に訪ふ里の市店数そひて 隆志 
来し方語る石立の面 正謹 
七重八重天主をかこむ花の幕 みのり 
のどけき庭に舞のひとさし 欣子