平成20年8月11日の連歌作品

賦 山何連歌

(初折 表)
ほととぎす啼きつる方や若葉宮

山へ一筋青田貫(ぬ)く道 正謹
二つ三つ袷の白く先立ちて 玖那
海人の小舟の漕ぎ出づる見ゆ みのり
知られざる宝求めて旅寝せむ 順子
秋は夕風雲のたゆたふ 康代
いつとなく甍照らせる望の月 善帆
深まるいろは名木(なのきの)もみぢ たかし
(初折 裏)
行く旅をしばし憩へばこのあたり みのり
水とくとくと湧くもうれしき ゆきこ
あふれ出づ想ひは人に知れたるや 正純
我が恋わたる間なく時なく
寒苦鳥愛を誓ふはひとよのみ 順子
雪の荒山ひびく鐘の音 みのり
行者行く小さき村の冬木立 玖那
飾(しょく)を捨てたる姿また快(よ)し ゆきこ
ものなにも置かぬ涼しさ夏座敷
すだれ通して月の入りこむ たかし
隠せども洩れにしことの多かりき 順子
八丁堀に十手駆け出し 玖那
太夫どち三味を片手に花見酒 康代
舞ふて風情を添ふるてふてふ 善帆
(二の折 表)
地震(なゐ)激し慟哭の空霾ぐもり
常なき世とはかねて思へど みのり
かの夜の契り早くも知らぬふり 正純
恋は楽しき遊び種(くさ)なる ゆきこ
ふくよかな胸元飾るガラス玉 康代
貰ひし君はダイヤに勝る 隆志
秋の田は一粒万倍黄金波 みのり
落し水にもいざ心して 玖那
尋ね入る深山の奥や月の宵 欣子
あばら障子に映る人影 康代
風冴えて経読む声もかすれをり 順子
扇の陰に欠伸こらえて 玖那
殿原の軍(いくさ)評定果てもなく
暁ばかり駒の出で立つ 康代
(二の折 裏)
つきぬまに別れを告げる鶏鳴けば たかし
今はの涙すべなかりけり みのり
ゆらゆらと雛流れゆく水の面 玖那
陽炎たかく野末とほ見ゆ 順子
うつろへば糸より細き春の雨 ゆきこ
垣根ごしなる竹の一群 欣子
去ると来(く)と塚に吹き交ふ嵯峨の風 みのり
つれなき君のたより待ち詫ぶ 康代
山川をなかに隔たる恋の道 たかし
虹は束の間なれば愛しき 善帆
ほつほつと鹿の子の斑(まだら)昼の月 みのり
木洩れ日ゆれて鐘またおぼろ 欣子
師を悼む山手神戸に花もがな みのり
面影のこし春はふけゆく 康代
(三の折 表)
端坐して一会の鼓仕る
誰ぞ舞ひ出でや小袖被ぎて 順子
夕茜雪は降りつつ光りつつ ゆきこ
けふの獲物は囲炉裏の馳走 玖那
僧なれば般若湯とも牡丹とも みのり
忘らるるわれこそあはれなり 康代
ゆするつき水に浮く塵むなしくも
霧たちこめてうたて雁がね 欣子
叢にまぎれし虫も鳴き初むる 順子
那須野のすすき幾重に重ね 玖那
やすらはで有明ばかり露の宿 康代
陽はまた昇る山寺の鐘 みのり
獅子王と名づく御剣(みつるぎ)賜はりて
近ききのうもけふは昔か 欣子
(三の折 裏)
ふるさとに変らぬ姿湖(うみ)青く ゆきこ
便りに託すかなたの白帆 玖那
ゆるゆるとおほぞら流るちぎれ雲 康代
梅雨明けたれば早も真夏日 みのり
さあ曳くぞだんじり囃子聞こゆらん たかし
我等が競(きほ)ひ神見そなはす
北の京聖火にゆらぐ五つの輪 康代
手をとり歩むときもうれしく 玖那
そも誰のバージンロードとは言ひそめし ゆきこ
誓ひの前に奪われし愛 順子
遁れけむ方はいづこやおぼろ月
雉笛ふくは流され人か 欣子
深山には花のとばりの架かるらし 康代
うららうつつの夢を見ばやな みのり
(名残折 表)
厨子棚にゆかしき絵巻置かれあり
鳥羽僧上も筆のすさびに 玖那
生くる物和して浄土となる訓(をしへ) ゆきこ
絆の薄きあはれ頃ほひ たかし
水に雪降れど降れども積み敢へず みのり
潮干に残る砂の城跡 康代
荒磯波よせてはかへすくりかへし
恋ひて秋知る心こそ憂き ゆきこ
乱れたる黒髪染めて霧匂ふ 正純
誰が咎なるや月なき今宵 善帆
この星の様変りゆく負の遺産 みのり
後継ぐ子らの笑顔忘れな 玖那
慎みて身過ぎ世過ぎを怠らず 正謹
のれんの前の石畳道 たかし
(名残折 裏)
打水に安らふ心わたる風 欣子
夕焼の雲四方に広ごる 康代
山陰に消へゆく鳥の声たかく 順子
杣人もどる渓の吊橋
画くまま景色はやがて雨もよひ 正謹
いよよ静けきうす墨の里 善帆
これやこの名に負ふ花よ上もなし みのり
由の木原に春のうは風 たかし