平成20年12月30日の連歌作品

賦 何袋連歌

(初折 表)
秋立つや町のにぎはひ風の中 康代

産土の杜物の音の澄む たかし
五つの輪月の都も眺むらむ
湖(うみ)それぞれに相対(あひむか)ふ影 みのり
白雲もい行きはばかる嶺高く ゆきこ
峠の茶屋に憩ふひととき 善帆
浅緑道の小草(をぐさ)は萌え初(そ)めて 音阿
陽の光さへうららかに見ゆ みのり
(初折 裏)
うち集ひうまごが初の雛祭り 欣子
長き袂をきそふ女童
肩過ぐる黒髪ゆれし君思ふ 順子
今となりては棚の文反古 玖那
国憂ひ素懐記せし脱藩状 音阿
癖あまたなる墨太の文字 善帆
天つ空遠雷(とほかみなり)にかき曇り ゆきこ
にわかに過ぎる夕立の足 瑞恵
月やがて千草の露を灯しけり みのり
管弦鼓揃ふ虫狩 正謹
身に入むや音こそつきせぬ横笛の
ほのかにかをる衣かぐはし 康代
おとめごの裾ひるがえす花のもと 玖那
はや抱き止めよ恋は逃げ水 みのり
(二の折 表)
はるかぜは魔風染風そよふけば
色即是空誦する心経 欣子
足止めて振りかえり見む石畳 玖那
居留地跡はこの辺りかと ゆきこ
ペチカ燃えみんな集ひし遠き日を
耳にとどまるバラライカの音 康代
海鳴りを聞く夜もあらむマトリョーシカ 音阿
緑の芝の岬に出でよ 玖那
帆をあげて出でぬる船の消へゆかん 順子
空渡りゆく雁の一連(ひとつら)
焼け山に月影落ちて風をさむ 康代
噴煙高くのぼる秋天 音阿
案山子さへ物言ひたげな米騒動 みのり
事の起(おこり)はみな人間(ひと)の慾 瑞恵
(二の折 裏)
しろがねの猫を童に与え去る 玖那
きのふまた旅けふもまた旅 ゆきこ
酔ふほどに思ひ焦るる里の家 康代
局(つぼね)ならびに住み侍るころ
篤姫の直ぐなる心君知るや 音阿
桜島にも木枯らしぞふく 玖那
冴え冴えと光は遠き六連星(むつらぼし) みのり
月無き夜を梟の声 瑞恵
忍びゆく六波羅禿(ろくはらかむろ)築地塀
待つほど久し門の小車 欣子
過ぎぬれば仮の契りとうらみけり 順子
ふる間に消ゆる春の沫雪 音阿
産土(うぶすな)の花やそれかと紛れつつ ゆきこ
雲とな言ひそ峯の霞を みのり
(三の折 表)
われもまた歌詠む法師に誘はれ
勿来の関にはるばると来て 玖那
ほととぎす鳴きつる方はその奥の 音阿
日の光(かげ)さへも射さぬ下陰 瑞恵
恋ひ侘びて朽ちなむ思ひ君知るや
古りにし面に逢ひたくもなし 順子
株暴落見る度つのるうらめしさ 音阿
またよきことのあらむこの道 玖那
ふるさとは歌も色葉の筑波山 みのり
まくらがの古河秋ぞ闌けゆく
霧晴れてひた澄みまさる後の月 瑞恵
水面を渡る風さはやかに 康代
そのむかし賤が樵(きこり)の金の斧 ゆきこ
響きも清き木霊たづねて
(三の折 裏)
けしからぬ物のあらはる兆しあり 順子
おとめごどちもひとさし舞へば 玖那
よろこびの宴もいよよ賑ははし 康代
うまさけ三輪の斎庭しぐるる
山の辺の水の一筋凍りつつ みのり
寒夜(さむよ)狭筵(さむしろ)思ひ寝に更く 瑞恵
夢にだに逢はなむものをなかなかに 音阿
阿呆烏の呼ばふ有明 ゆきこ
新小田(あらをだ)にけふは案山子の弓矢取り みのり
残る暑さもしまし束の間 康代
空薫のいずくともなく漂いて 欣子
いでや遊男(あそびを)この高殿に みのり
錦帳の下にも舞ふや花吹雪
世をつらつらと春ぞ惜しまる 瑞恵
(名残折 表)
うらうらに流るる汀いささ川 康代
手網(たも)もて走れあれにザリガニ ゆきこ
童らの唄ひて帰る里の径 音阿
久那斗の神と仰ぐ夕虹 欣子
姫百合のさやに色濃き関所跡 康代
熱き戦(いくさ)の夏も古りけり みのり
彼のこと忘れたふりで指輪はめ 正純
涙の理由(わけ)はまして言ふまじ 瑞恵
水かけて恋と義理との法善寺 ゆきこ
何やらゆかし横丁の月 康代
そぞろ寒抱く捨て猫帰り道 善帆
刈田の後をわたる風の音 にちまろ
いかにかに過ぎ給ひしと聞くだにも みのり
ただなつかしき人の訪れ 欣子
(名残折 裏)
埋火の温味にまさる暖かさ にちまろ
祝ひ餅搗く雪の湯の宿
山あひに響く掛け声清々し 善帆
むかし鍛へし歌のかずかず たかし
ほそ筆にそこはかとなく書きつづる 玖那
かたはらよぎる風もうららか 康代
おん神も見そなはすとや花の下 正謹
よき人おほき古里の春 順子