平成23年12月15日の連歌作品

(初折 表)
葉を脱いで冬日よびこむ林かな 佐為

鵠が掛けし霜の帷子 浜菅
水烟る湖に捨舟うらみせて 涅阿
をちこち糸を垂らす釣人 佐為
月あかり昼かとまがふ影法師 涅阿
よすがら庭にすだく虫の音 佐為
野にやどる過客は露に濡れるらん 涅阿
山をしるべのみちのはるけさ 佐為
(初折 裏)
悠久の時をたゆまず大河ゆく 涅阿
雪間の草に春のおとづれ 佐為
来てみれば霞みの奥に不二見えて 涅阿
城の甍に風光りけり 佐為
ふるさとは変はらぬままがありがたき 涅阿
初恋の人今もわが胸 正純
儚くもをさなきどちの契りにて 佐為
おもひで溢れ出づるあき風 涅阿
くもりなき月はこころを映すらん 佐為
寝るさへ惜しき夜の菊の香 涅阿
神仏の幽かな波動身に感じ 佐為
わびすむ庵も御殿とぞなる 涅阿
もゝちどり深山に花の咲き初めて 佐為
帰へさ小川に根芹摘みをり 涅阿
(二の折 表)
片もひの君すむ方は遠がすみ 佐為
なしのつぶてのふみのむなしき 涅阿
夢やぶれ帰国と友のうわさ聞く 佐為
むしろ憂きものひとのなぐさめ 涅阿
詮ずれば苦労ばなしも自慢なり 佐為
更けて音なく積もる初雪 涅阿
つぎつぎとなき人浮かぶ小夜時雨 佐為
濡るる蓑笠縋るひとすぢ
庵住に飽きては出づる旅ごろも 涅阿
花追ひ人の性もかなしや 佐為
玉盈(たまもひ)に映る月かげ朧なる
たどればあやし春の夜の夢 涅阿
極楽も地獄もおのが心にて 佐為
ありのすさびの糸竹のみち
(二の折 裏)
流されし身に情け染む須磨明石 涅阿
藻塩のけぶりなびく浦風 佐為
わりなくも縁を断つや迎船
日々孝行はすべきものかな 涅阿
雁さへもひととせ一度かへる里 佐為
さらぬだにしむ秋の夕風
弓張のいづれ満つらん酒の酔ひ 涅阿
虫のこゑにもあるや序破急 佐為
ここと知る御代つかの間の都跡
四方の田面を吹きわたる風 涅阿
ゆるぎなき山の姿に気が晴れて 佐為
空はのどかに春あさぼらけ
桜こそ造化の神の佳作なれ 涅阿
無心に蜜をあつめ飛ぶ蜂 佐為
(三の折 表)
一刺しに相対死にとすがる恋
よよと涙に濡るるきぬぎぬ 涅阿
なきつまのおもかげ追へば夢うつつ 佐為
なにを名告るややまほととぎす
ゆくりなく門を出づれば青時雨 涅阿
霑(しほ)れし野仏の笑みはかはらず 佐為
あらましのいまはつきぬる老いの身に
なほつれなくも止まぬ木枯らし 涅阿
あかあかとともる家の灯冴ゆる夕 佐為
繊月寒く出づる山の端
世に古るもまなこ冷まじ阿吽像 涅阿
托鉢終へし僧あどけなき 佐為
手習子寺小屋帰りふと見染め
おもひたくさんひらがなのふみ 涅阿
(三の折 裏)
英雄になれど息子は異国にて 佐為
母の「いしよのたのみ」胸うつ
たはれをを悔いて四十路で身を固め 涅阿
かすみの晴れて見えし道筋 佐為
吹く東風もそふるめでたき花の宴
ひと差し舞へば和すや鴬 涅阿
こゝろみに引いた神籤に吉が出て 佐為
舫ひ綱解き漕ぎ出す岸辺
旅に死す覚悟はとうに隅田川 涅阿
おもへば遠き空よ陸奥 佐為
のがれたる一本松を月照らす
末枯れし野をつつむ夕闇 涅阿
来ぬ人を待つはむなしき虫の声 佐為
かずにあまれる身のおもひ憂し
(名残折 表)
妻の座を奪ひ盗らんやみだれ髪 涅阿
すずしき顔で道を説くきみ 佐為
さればいざさなむかくなむ分けてみよ
十中八九もめるさうぞく 涅阿
ひとはみな修羅にもなれば仏にも 佐為
塔の上なる冴ゆる寒星
あやぶみし年越できるありがたさ 涅阿
ふうとため息浸かる柚子の湯 佐為
刺青もともに老いたり鯔背肌
軒端をかりてしのぐ夕立 涅阿
つばめの子みなそつくりの口あけて 佐為
夕べ門田をわたる涼風
ひんがしの山際あかり月出づる 涅阿
祈りおのづと五山送り火 佐為
(名残折 裏)
鉦叩一院の闇深きより
そろりと歩む雨後の延段 涅阿
能の舞急にわからぬ面白さ 佐為
眉白妙の翁出でまし
神さぶる千代の松が枝苔むして 涅阿
清き社に満つる春光 佐為
花の下ほどはとはれぬ連歌の座 涅阿
善男善女を撫づる軟東風 佐為