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虫の音さへもひそと鎮宮 |
みのり |
残りゐし暑さ払へず雨止みて |
正謹 |
寄する波間にひとときの風 |
淑子 |
漁り火は瞼のうちにかすみつつ |
にちまろ |
春あかときの峠越え行く |
正謹 |
道ごとに芽吹きの色のあらたまり |
にちまろ |
雀一群あそぶ大屋根 |
欣子 |
(初折 裏) |
円囲する久しき友の声高し |
にちまろ |
頬くれなゐの日に戻る歌 |
みのり |
別れさへ甘き匂ひにつつまれて |
にちまろ |
さても都の習ひはなやか |
正謹 |
馴れ睦ぶ品も古りはて翁さび |
隆志 |
微笑み返す砥石の光 |
にちまろ |
あかあかと鞴火を成す刀鍛冶 |
正謹 |
神よりほかに捧ぐるはなし |
にちまろ |
水掬ぶ五十鈴の川に浮かぶ月 |
欣子 |
夜露にうるむ紅葉々の色 |
にちまろ |
秋簾ゆれて琴の音いづくより |
淑子 |
踏石に置くあかき塗下駄 |
佳 |
その人と知ればときめく花の客 |
みのり |
弥生の空のくれがたくして |
欣子 |
(二の折 表) |
舳の先は果て無き海路鳥雲へ |
正謹 |
まだ名も知らぬ世界求めて |
にちまろ |
日経(ひのたて)にシルク豊かにあると聞く |
隆志 |
到来の裳はさすが艶(えん)なる |
正謹 |
庵たづぬあひ見し人の尼姿 |
にちまろ |
雲に梯子を知る帰り道 |
正謹 |
ほどほどの夢もまたよし夕茜 |
欣子 |
たか嶺なす富士初雪の降る |
伏木 |
見放くればほほけ芒野果てもなく |
みのり |
時雨のいそぐ風の通い路 |
にちまろ |
潮待ちは是非なく月を頼みつつ |
正謹 |
くつろぐ宿に聞く国なまり |
欣子 |
独り旅主夫婦の睦まじさ |
にちまろ |
思ひ顔なる猫端居して |
正謹 |
(二の折 裏) |
さやさやとさやぐ笹叢ささの葉に |
みのり |
隠しかねしかかく輝けば |
伏木 |
捨つる身のまなじりを裂く怨み色 |
にちまろ |
うき世に揺るる墨染の夕 |
隆志 |
横たふる天の川とや渡らばや |
欣子 |
月は小舟の六日夜の影 |
みのり |
後朝に忘れ扇の片びらき |
淑子 |
わざとにしたる風のいたづら |
にちまろ |
砂山に砂の動けば砂の波 |
みのり |
ここやかしこと鳴く浜千鳥 |
ひさよ |
まなざしのはての雲間に日はをちて |
にちまろ |
天地まろかやがてのどけし |
伏木 |
南・北さし交はす枝の花ざかり |
みのり |
籬にからむ蔦芽ぶきそむ |
欣子 |
(三の折 表) |
大店の主人侘び住む柴の庵 |
正謹 |
在り在りてのち来る新世紀 |
隆志 |
宇宙より産声聞くも夢ならじ |
淑子 |
星の図鑑にうつぶす我が子 |
にちまろ |
キャプテンの腕確かなる六分儀 |
みのり |
板一枚に地獄かいまむ |
欣子 |
限りある力甲斐なき潮嵐 |
正謹 |
冴えて新月糸のかぼそさ |
みのり |
枯蔓をめぐらす城の跡もなく |
淑子 |
雪には埋むありし日の夢 |
にちまろ |
恋人の去りし足跡残るかや |
隆志 |
契りしことのたのみがたくて |
淳 |
ゆく川の流れにくくる笹小舟 |
にちまろ |
ここは津の国葭切の声 |
欣子 |
(三の折 裏) |
振り分けの荷もかろがろと旅の空 |
淑子 |
苞はゆかしき歌ぐさなれば |
みのり |
風にのりなつかしき香もただよひて |
淳 |
みのり豊かにささぐ御社 |
伏木 |
照らす日に紅葉も人も色づきて |
にちまろ |
のぼる山霧瀧音近し |
正謹 |
もろともにむかふ筑波路さはやけく |
伏木 |
憧れやまぬ永遠のまほろば |
みのり |
いにしへにつきしいしずゑおほいなり |
つねなり |
人はかはれど街はかはらず |
にちまろ |
月影に浮かぶもの皆おぼろなり |
正謹 |
春のみ吉野由ある鼓 |
欣子 |
おくれ咲く花こそよろしことしまた |
美代子 |
そらに知られぬ雪に身を置く |
正謹 |
(名残折 表) |
しろたへの枕をぬらす忍ぶ恋 |
美代子 |
あざむく言葉もてあましつつ |
にちまろ |
かけひきは千夜一夜の睦みごと |
石猿 |
めぐりめぐれる回燈籠 |
美代子 |
円居しておとどは語る国の末 |
正謹 |
をみなはなやぐ公開講座 |
欣子 |
秋簾なほもあせたるまま掛かり |
美代子 |
病み臥して聞く松虫の声 |
隆志 |
雲ふかくいさよふ月も見えざりき |
美代子 |
松茸入りの酒にほへども |
淳 |
ひややかにそびらより吹く風のあり |
美代子 |
つつめど恋の我が名立つらし |
みのり |
今日もまたものや思ふと問はれつる |
淳 |
うかと差し過ぐ文の屋の前 |
正謹 |
(名残折 裏) |
三尺の帯もきりりと紺絣 |
欣子 |
常のわん白よき男なる |
淑子 |
幼さの残る口元息白く |
淳 |
あふぐあをくも母なる大地 |
正謹 |
いつもより身体を伸ばす休日に |
にちまろ |
風にふはりと飛ぶ巣立鳥 |
美代子 |
門出をば祝ぐ古里の花吹雪 |
隆志 |
四方平らけく出づるひこばえ |
伏木 |