平成12年11月7日の連歌作品

(初折 表)
杜知るや幾代の月を待つ今宵 隆志

虫の音さへもひそと鎮宮 みのり
残りゐし暑さ払へず雨止みて 正謹
寄する波間にひとときの風 淑子
漁り火は瞼のうちにかすみつつ にちまろ
春あかときの峠越え行く 正謹
道ごとに芽吹きの色のあらたまり にちまろ
雀一群あそぶ大屋根 欣子
(初折 裏)
円囲する久しき友の声高し にちまろ
頬くれなゐの日に戻る歌 みのり
別れさへ甘き匂ひにつつまれて にちまろ
さても都の習ひはなやか 正謹
馴れ睦ぶ品も古りはて翁さび 隆志
微笑み返す砥石の光 にちまろ
あかあかと鞴火を成す刀鍛冶 正謹
神よりほかに捧ぐるはなし にちまろ
水掬ぶ五十鈴の川に浮かぶ月 欣子
夜露にうるむ紅葉々の色 にちまろ
秋簾ゆれて琴の音いづくより 淑子
踏石に置くあかき塗下駄
その人と知ればときめく花の客 みのり
弥生の空のくれがたくして 欣子
(二の折 表)
舳の先は果て無き海路鳥雲へ 正謹
まだ名も知らぬ世界求めて にちまろ
日経(ひのたて)にシルク豊かにあると聞く 隆志
到来の裳はさすが艶(えん)なる 正謹
庵たづぬあひ見し人の尼姿 にちまろ
雲に梯子を知る帰り道 正謹
ほどほどの夢もまたよし夕茜 欣子
たか嶺なす富士初雪の降る 伏木
見放くればほほけ芒野果てもなく みのり
時雨のいそぐ風の通い路 にちまろ
潮待ちは是非なく月を頼みつつ 正謹
くつろぐ宿に聞く国なまり 欣子
独り旅主夫婦の睦まじさ にちまろ
思ひ顔なる猫端居して 正謹
(二の折 裏)
さやさやとさやぐ笹叢ささの葉に みのり
隠しかねしかかく輝けば 伏木
捨つる身のまなじりを裂く怨み色 にちまろ
うき世に揺るる墨染の夕 隆志
横たふる天の川とや渡らばや 欣子
月は小舟の六日夜の影 みのり
後朝に忘れ扇の片びらき 淑子
わざとにしたる風のいたづら にちまろ
砂山に砂の動けば砂の波 みのり 
ここやかしこと鳴く浜千鳥 ひさよ
まなざしのはての雲間に日はをちて にちまろ
天地まろかやがてのどけし 伏木
南・北さし交はす枝の花ざかり みのり
籬にからむ蔦芽ぶきそむ 欣子
(三の折 表)
大店の主人侘び住む柴の庵 正謹
在り在りてのち来る新世紀 隆志
宇宙より産声聞くも夢ならじ 淑子
星の図鑑にうつぶす我が子 にちまろ
キャプテンの腕確かなる六分儀 みのり
板一枚に地獄かいまむ 欣子
限りある力甲斐なき潮嵐 正謹
冴えて新月糸のかぼそさ みのり
枯蔓をめぐらす城の跡もなく 淑子
雪には埋むありし日の夢 にちまろ
恋人の去りし足跡残るかや 隆志
契りしことのたのみがたくて
ゆく川の流れにくくる笹小舟 にちまろ
ここは津の国葭切の声 欣子
(三の折 裏)
振り分けの荷もかろがろと旅の空 淑子
苞はゆかしき歌ぐさなれば みのり
風にのりなつかしき香もただよひて
みのり豊かにささぐ御社 伏木
照らす日に紅葉も人も色づきて にちまろ
のぼる山霧瀧音近し 正謹
もろともにむかふ筑波路さはやけく 伏木
憧れやまぬ永遠のまほろば みのり
いにしへにつきしいしずゑおほいなり つねなり
人はかはれど街はかはらず にちまろ
月影に浮かぶもの皆おぼろなり 正謹
春のみ吉野由ある鼓 欣子
おくれ咲く花こそよろしことしまた 美代子 
そらに知られぬ雪に身を置く 正謹
(名残折 表)
しろたへの枕をぬらす忍ぶ恋 美代子
あざむく言葉もてあましつつ にちまろ 
かけひきは千夜一夜の睦みごと 石猿
めぐりめぐれる回燈籠 美代子
円居しておとどは語る国の末 正謹
をみなはなやぐ公開講座 欣子
秋簾なほもあせたるまま掛かり 美代子
病み臥して聞く松虫の声 隆志
雲ふかくいさよふ月も見えざりき 美代子
松茸入りの酒にほへども
ひややかにそびらより吹く風のあり 美代子
つつめど恋の我が名立つらし みのり
今日もまたものや思ふと問はれつる
うかと差し過ぐ文の屋の前 正謹
(名残折 裏)
三尺の帯もきりりと紺絣 欣子
常のわん白よき男なる 淑子 
幼さの残る口元息白く
あふぐあをくも母なる大地 正謹
いつもより身体を伸ばす休日に にちまろ
風にふはりと飛ぶ巣立鳥 美代子
門出をば祝ぐ古里の花吹雪 隆志
四方平らけく出づるひこばえ 伏木