平成13年11月1日の連歌作品

(初折 表)
遠き地の命を月に祈りけり 淑子 

昨夜(よべ)は銀河に見し摩天楼 みのり 
白玉の露に光はやすらひて 正謹 
あるかなきかの風の草原 欣子 
子羊に道指し示す人あらむ 玖那
迷へるもよし平らかなれば 隆志 
往昔のいくさの習ひひもときて 善帆 
都大路に幟はためく 玖那
(初折 裏)
外つ国の一の大臣(おとど)の貴(あて)やかさ 忍冬 
伝へし色は韓のくれなゐ 正謹 
山便り庵はもみぢに染まるらん 英夫 
世捨て人にも秋晴れの空 正純 
あかとんぼ部活仲間とボランティア 玖那 
汗と笑顔が似合ふ楽しさ 正謹 
風吹きてしどろもどろの船遊び 美代子 
限りある身を曝す天地 正謹 
言の葉は余る思ひに足らざりき みのり 
交はすグラスのロゼのかぐはし 欣子 
いつのまに名残の雪の旅の宿 美代子 
月あはれなる宵おぼろ湧く 正謹 
花よりも更に花なる君ゆゑに みのり 
まぶたにとどむ口紅のいろ 玖那
(二の折 表)
滾ッ瀬の音に誘はれ垣間見し 正謹 
比丘尼の朝を滝に打たるる 欣子 
罪科(つみとが)をこなたかなたに重ね来て 美代子 
惜しみ愛(かな)しむ過ぎ行きし日々 みのり 
途ひらけ深山の里も様変はり 隆志 
畑(はた)に青首並ぶる大根(おほね) 美代子 
枯葉焚く煙りほそほそ地に低く 欣子 
塒もとめて鳥の声々 隆志 
くりかへしうたふ童謡(わざうた)はしきやし 美代子 
園児見送る汽笛一声 玖那
村おこしデゴイチ来たる峡の駅 正謹 
揺れる稲穂も笑みを浮かべて 正純 
夜の更けてひまなる案内子(そほづ)照らす月 隆志 
そぞろ寒きを相身互に みのり 
(二の折 裏)
百年(ももとせ)の恋のおもひの褪せにけり 美代子 
ゆく流れ木を誰か止めむ 正謹 
みやびなる言の葉さへもはかなくて みのり 
鄙に馴染まず都の手風(てぶり) 美代子 
小夜ふけて狐狸の舞踏会 玖那 
雪しんしんと降りそむる頃 欣子 
燗の酒極楽の文字沁み通り 正純 
般若の顔も弁天となる 隆志 
鬼も泣く琵琶の調べぞ羅生門 玖那
せんなきことも日々生きるため 善帆
うつせみのうつろの影や昼の月 みのり 
ま白き雲のわたりゆく里 欣子 
春の風そよと綿飴なめにけり 玖那 
花の宴の遅き陸奥(みちのく) 美代子 
(三の折 表)
歌枕訪ねて揚羽舞うを見る 正純 
夢かうつつか定かならねど 正謹 
胸底にさざれのいしの清くすむ 美代子 
峡に釣り糸垂るる人影 欣子 
夜想曲眉引く色もなまめかし 玖那
秘めし想いを歌に託して 正純 
見えかくる文字の間(あはひ)のひたごころ みのり 
墨の衣にこもる夏山 欣子 
かの世へはまだいざなふなほととぎす 美代子 
肝の束ねを語らひ置かん 正謹 
軍船(いくさぶね)乗らばおのづと軍人(いくさびと) みのり 
父母顕(た)ちて野山の錦 欣子 
さみしさは有明の月しらじらと 美代子 
浅茅が宿に露の散るらむ 玖那 
(三の折 裏)
往く秋を惜しむか鴫の漂よひて 正謹 
影おく沢のまこと閑(しづ)けし 欣子 
時忘れ清き流れに身をうつす 正純 
石の仏のまなこやさしも 美代子 
二つ三つ振袖見たり苔の庭 玖那
紫の野は茜さしつつ みのり 
眼の下に広がる蒲生(がもふ)の恋筵 隆志 
偲ぶ心に雪は今年も 正謹 
月氷り逢ひたきひとに逢へざりし 美代子 
夜咄はてて畳む茶会記 欣子 
アラビアの不思議のランプ消ゆる時 みのり 
我目覚めたり春はあけぼの 正謹 
歌詠みの夢を紡ぎて八重の花 正純 
枝のうぐひす声のととのふ 美代子 
(名残折 表)
過ぎし日をよみがえらせり蓄音機 玖那 
想ひの顔の消えみ消えずみ 隆志 
紫の小紋ゆかしき女(ひと)ありて 善帆 
打水ののち門(かど)に塩盛る 美代子 
空蝉を軒に忘れて夏降つ 正謹 
襟元とほるさはやかな風 玖那 
河原辺の焚火かぐわし魚を焼き にちまろ 
粧ふ山とうまし酒くむ 善帆 
神庭(かむには)に後の世までも契るなり みのり 
玉の日の御子待つは民草 欣子 
よろこびの知らせあるべし大八洲(おおやしま) 玖那 
潮も適ひぬいざ唐土へ 正謹 
海原も月のひかりにこほるらん にちまろ
いづくともなく笛の音(ね)ひびく 美代子 
(名残折 裏)
静かなる平家の里の夕まぐれ 正純 
都ぶりよきおすもじの味 みのり 
人ごとにほころぶる頬異ならず にちまろ
をりふしを愛で山を守りつ 正謹 
日照雨(そばえ)してうすら虹たつ沢づたひ 欣子 
末広がりの慶び待たむ 善帆 
普請成るしるしの若木花盛り 正謹 
あがる雲雀の声もうららか にちまろ