(初折 表) | |
大内の花ぞ新宮(にひみや)冬晴るる | みのり |
鶴(たづ)舞ひたつる千代の松が枝 | 欣子 |
日のしずく垂氷の末に輝きて | 正謹 |
足取りかろし駅までの路 | 玖那 |
外つ邦の友の便りを懐に | にちまろ |
鹿島立つ浦薫る初潮 | あすか |
やうやくに出でたる月の羞(やさ)しかり | 美代子 |
すすき・かるかや捧げまつらん | みのり |
(初折 裏) | |
磐が根のこごしき径を踏み分けて | 欣子 |
たたなはる峰四方見張るかす | 隆志 |
雨ありて草木潤ほふ有難さ | ひでお |
早苗の丈も伸びる盛りに | にちまろ |
兼言(かねごと)は蛍の闇のあはければ | あすか |
よさりにおもふうしろすがたを | 玖那 |
みこころに触れたくあふぎし菩薩さま | 美代子 |
光に影に慈しみあり | 正謹 |
飲むほどは酒こそ日々の頼りにて | にちまろ |
大江が鬼は絵双紙の中 | あすか |
月かすむ丹波路(たにはぢ)の里のどかなり | 忍冬 |
野に遊びてはてふてふのごと | みのり |
をちかへり咲ける桜の貴(あて)なるよ | 美代子 |
馴れこし庵に届く玉章 | 隆志 |
(二の折 表) | |
羽根あらば越えてかゆかん待乳山 | 欣子 |
隅田川原のけふは祭り日 | 正謹 |
姉妹とて親の浴衣をあらそひて | にちまろ |
耐へし継子は灰かぶり姫 | あすか |
いつはりとまことは一つ表裏 | 隆志 |
かたちのこさず海に降る雪 | 美代子 |
映像に残る姿もなつかしく | 玖那 |
我生くるべきはたや死すべき | みのり |
不帰(かへらず)の峰を山踏み独りして | 正謹 |
声に帰るか高志の雁 | 欣子 |
月おぼろすみれに寝(い)ぬる和尚さま | あすか |
鄙(ひな)には鄙の弥生の愁ひ | 美代子 |
治まれる村里愛し敬まふて | 隆志 |
母ともなれる人のけだかさ | みのり |
(二の折 裏) | |
天草のマリア幼子いつくしむ | 玖那 |
ものさびしらに八十の島々 | 正謹 |
流れ行く雲のはこびや鴎追う | にちまろ |
かなたは晴れてはや鰤起し | あすか |
寒椿豊かな漁を願ふごと | 正純 |
かじかみながら門(かど)にて待てり | 美代子 |
来(こ)といふを来(く)れば灯もなし応(いら)へなし | みのり |
露に濡れつつ袂を絞る | 美代子 |
背の月かえりみなせそいたづらに | 正謹 |
時を惜しむや雁の一声 | 隆志 |
神南備の山と崇むるいく御代ぞ | あすか |
めぐる小川も水温む頃 | 欣子 |
おのずから曲水となる花の下 | にちまろ |
いとかぐはしき草餅を食む | 美代子 |
(三の折 表) | |
ふるさとに泣くいにしへの流行歌(はやりうた) | 玖那 |
あとかたもなくその様変はり | 隆志 |
かの君の愛でし明石の白き橋 | 正純 |
踏みわたりなば相生の松 | あすか |
平均台はかるがごとき縁とや | にちまろ |
尺取虫は尺を取りつつ | みのり |
目にも見よ五分の魂ここにあり | 玖那 |
和(なご)しき顔にかたへの地蔵 | 欣子 |
吹く風がはこびきたれる鳴子の音(ね) | 美代子 |
むらだちさわぐ穂にぞまぎれて | にちまろ |
芦を刈る河辺の小船照らす月 | 隆志 |
波ゆらゆらと影冴えわたる | 善帆 |
年忘れ呑みて語りてわすれねば | 美代子 |
挙句心の錆捨てやらず | 正謹 |
(三の折 裏) | |
朝毎に思ひの玉を手繰り寄せ | みのり |
母を背負ひて行くご縁日 | 隆志 |
軒下に並ぶ小店の小商ひ | 欣子 |
けなげにはげむ風鈴の舌 | あすか |
昼下がり暑さに言葉うしなへり | にちまろ |
うすぎぬを脱ぐ水のほとりに | 美代子 |
仙女ともなりたるここち君を待つ | みのり |
時刻む音甘くせつなく | 正純 |
影おとす白雲ひとつ秋の暮 | 欣子 |
いとど鳴かねばいぢめられをり | 美代子 |
月草の移ろひやすき世の情 | みのり |
けふは山吹襲てみしが | 正謹 |
翠黛の嵯峨にさざめく花衣 | あすか |
かすむばかりの墨染の袖 | にちまろ |
(名残折 表) | |
ふりむけば陸(くが)とほかりしわたのはら | 玖那 |
さもあらばあれ戦(いくさ)にい行く | 美代子 |
ふところに歌物語しのばせて | 欣子 |
梁(うつはり)の塵動かしてみむ | 隆志 |
ましら寝る積乱雲はかなたにて | 玖那 |
西域遥か道極めたし | 正謹 |
掌合わせ迎える民の国 | にちまろ |
黄金(こがね)に靡く穂の美しき | 善帆 |
秋雨に鯱鉾ぬれて空さみし | 玖那 |
山また山も出づる月待つ | 美代子 |
庵近き谷の水音暗き夜は | みのり |
子等に囲まれ昔を語る | 正謹 |
重ね着の老いと温みを分かつ猫 | 欣子 |
訪ね来るとの便り嬉しき | 隆志 |
(名残折 裏) | |
風落ちてなごりは波の寄するのみ | 正謹 |
海女の磯笛空に消えゆく | 秋桜 |
旅人のふとふり仰ぐほととぎす | みのり |
峠の茶屋にかをる焙じ茶 | あすか |
見渡せば忘れ雪さへあたたかし | にちまろ |
雛のほほへみいとしずかなり | 玖那 |
ぼんぼりにけぶる紅(くれなゐ)千枝の花 | 欣子 |
春の光によろず幸あれ | 隆志 |