平成16年2月5日の連歌作品

(初折 表)
あらたまの御世やはらぶを祈りけり 隆志

初日兆せる東雲の空 正謹 
さしも草堤かすかに化粧(けわい)して 泥舟 
声もさとわに来鳴くうぐひす みのり 
奥深き庭のほのかに香るらむ 善帆 
しじまの中の山かげの道 玖那 
月さして大杉の肌煌きぬ にちまろ 
葉ずえのしづく小野の露霜 欣子 
(初折 裏)
ゆく秋に沖のしら波うらがへり あすか 
竿梶乾さず島へとゆかな 美代子 
はやはやと汝は待つらん嘆くらん ゆきこ 
まことから出たうそも愛しく 光 
焔星訪へば名ばかりいと寒し あいた 
生きとし物の跡を求めて 裕雄 
掘り当てし岩床に見る足の影 隆志 
帰らざるときをしむあゆみも 伏木
隣とはいへど遥けし望の月 泥舟 
露の籬の奥の琴の音 みのり 
温め酒呑めば恋しきひと思ふ 美代子 
知らずやゆかしその袖の香を ゆきこ 
追風に花もおとづる須磨の浦 欣子 
さだめなき世に初虹の顕ち あすか
(二の折 表)
うららなる名に癒さるる昨日今日 裕雄 
贔屓(ひいき)をすれどうまうまと負く 美代子 
敵味方涼み将棋は誰のもの あいた 
紙風船の夕立に濡れ 泥舟 
軒端より駆け行く浴衣の色白く 玖那 
五条大橋君が待つゆゑ みのり 
すぎゆきを思ひわぶらん遠き笛 光 
夢まぼろしと舞ひおさめけり 欣子 
月さへも祝ひ輝くメダルへと 正純 
野分も去りてかざす山の端 玖那
吹き乱る籬のもとのをみなへし 裕雄 
蔀のうちを猫のうかがふ 善帆 
ご用心壁に耳ある世の譬へ みのり 
恨みの瓶子臍を噛む浜 泥舟 
(二の折 裏)
雪に遭ひ南の島へ戻りたや 美代子 
「サヨナラ」ばかりこごえるインコ ゆきこ 
なぞらへてちぢにみだるるをみなごよ あすか 
つねならぬ身の恋ぞはかなき 裕雄 
いまははや砂漠のなかのことどころ 隆志 
兵庫(つはものぐら)を捜せどあらず 美代子 
そらしらず疾風のさりて後の月 欣子 
柿の値にまさる名を得し 泥舟
栗の実の爆ぜる囲炉裏の年男 裕雄 
よく見よく聞きましら酒酌む あすか 
能書(のうがき)はまことしやかな嘘もあり みのり 
観世普門の教へ霞むか あいた 
花のもと桜がさねをまとふなれ 美代子 
佐保の堤に添ふは青柳 隆志
(三の折 表)
旅に出むあたらのどけき春の日を みのり 
雲と語らい風の音友に 泥舟
九仞の谷を描ける寝間屏風 にちまろ 
目を遊ばする珍しき石 善帆 
盤の上白の模様の都ぶり 泥舟 
氷に舞へば鳥ともならん 伏木 
松原や月に小雪の薄衣 みのり 
みのらぬ恋に手足かじかむ 美代子 
高安の里に響かぬ笛悲し 隆志 
荒れにし寺に聞く山颪 欣子 
錫杖を友と頼りて門を出づ 裕雄 
遊ぶ子供に猫やりおきて 泥舟 
干草の匂ひのなかに眠らばや 美代子 
麻の暖簾もかすか揺れつつ 光 
(三の折 裏)
賑わいも船場の店に集いたり 玖那 
なにはともあれ新酒新蕎麦 みのり 
人も無きながながし夜をあづけをり にちまろ 
思ひ過ぐれば月もかたぶく みのり 
秋深し手のよき文をしみじみと 善帆 
去年神奈備の契りぞ今に 伏木 
会ふはまた別れのはじめ彼の岸へ 美代子 
エーゲの海をめぐる白き帆 玖那 
青き野の羊の群れをさながらに ゆきこ 
雲は湧きたち四方の山並 あすか 
若人のことなき空を祈る日々 裕雄 
ひひなのかほも母もかなしゑ 美代子 
階に咲くやこの花国の花 欣子 
霞は八重にやまとまほろば 隆志 
(名残折 表)
かのこゑは小綬鶏ならむ何用ぞ あすか 
なきて撃たれし某もあり みのり 
水ひけよそれ日焼け田とするなかれ 伏木 
たちまち起こるいかづちの雲 ゆきこ 
道行きをするも深山の険しくて 美代子 
石仏さへ肩をよせあひ 光 
誰が彫りし心の跡をたどるらむ にちまろ 
今はむなしく吼ゆる唐獅子 あいた 
年を経し加賀友禅も薄汚れ 裕雄 
かずあるしみはわがなきしあと 泥舟 
川霧に三味の音しみる奥座敷 善帆 
宿れば虫も寝たか夜のふけ 欣子 
何処なる月をや夢に結ぶらむ あすか 
文を開けば紅葉の栞 玖那 
(名残折 裏)
はぜて舞ふ柴の火の粉の煌きに にちまろ 
いや馴鹿(トナカイ)の橇は来るらし みのり 
ふる雪に幼きころのよみがえり 裕雄 
かぞへ唄やらいろは唄やら ゆきこ 
渚べに寄せては返す波うらら 美代子 
笑まひそめたる山のたをやか あすか 
門跡に枝垂れてゆるる花の影 善帆 
春のことづてはこぶ松風 欣子