賦 何衣連歌
(初折 表) | |
今年またこの花の下(もと)小編笠 | 稔 |
こころに染むや杜のうぐひす | 佐為 |
四方の山春の匂ひにつつまれて | どん |
ふもと長閑けくうち霞みたり | 瑞恵 |
小流れに笹舟浮かべ競ふらむ | 音阿 |
その行く末は市の賑はひ | たかし |
望月のたたはしき夜や駒をひく | みのり |
鈴虫はべる足元の道 | 玖那 |
(初折 裏) | |
露時雨しばしと野辺にふり出でて | ゆきこ |
ひと木の下を頼むせつなさ | 順子 |
いつしかに重ね重ねし袖の香に | 欣子 |
涼しき風の通る路地裏 | 康代 |
子らの声追ひつ追はれつ虹の空 | 善帆 |
そは想ひ出の九十九里浜 | どん |
かはらぬはよせてはかへす細波(さざれなみ) | 稔 |
柱時計の振り子にも似て | 玖那 |
まつむしや夕轟きの胸の内 | みのり |
閨の廂をもるる月かげ | 稔 |
睦言をつつむ狭霧のうす衣 | 瑞恵 |
ほどよき酔ひに身をまかせばや | どん |
さくら咲く春ようららにさくら咲く | みのり |
(システムの不具合により、初折裏14から三折表7までが欠落しています) | |
蚊遣りをたけばけぶる月影 | 康代 |
浮雲のさまよふ山辺風見えて | みのり |
真帆かけ出づる魚捕(いをとり)の舟 | たかし |
小冠者も腰蓑まとひ身をやつし | 稔 |
何を誓ひの宮詣り道 | どん |
ひびき合ふ音だに寒き明けの鐘 | 瑞恵 |
凍てて鶴群(たづむら)めざむるもなし | みのり |
(三の折 裏) | |
遥かなる釧路の街の細雪 | 玖那 |
積もる思ひは船場いとさん | 康代 |
世心をわかぬ老舗の紺暖簾 | どん |
恋と商ひいづれが重い | 稔 |
旅ゆけば追分道の道しるべ | 玖那 |
蜻蛉とまりてとびたつ方へ | 音阿 |
唄伝ふ人さはやかに千の風 | どん |
もののあはれも澄みわたる月 | みのり |
たちこめし宇治の川霧たえだえに | 稔 |
あらはれそむる争ひの跡 | 瑞恵 |
契りおく絆は脆き除目前 | どん |
陣座(じんのざ)退(まか)る春まだ寒き | 稔 |
さらばとて頭挿(かざ)さむ花もなかりけり | みのり |
待つ報(しらせ)こそ「さくらさく」なれ | 瑞恵 |
(名残折 表) | |
山家には似気なきなりの晴れ衣 | どん |
声朗々と歌会(うたゑ)するらし | ゆきこ |
恋の句を汝も名告るやほととぎす | 稔 |
やうやくに逢ふ夜の短かきに | みのり |
枕もとかはく間ぞなきうらめしく | 玖那 |
さりとてさまで憎からぬ君 | 瑞恵 |
この辺の者でござると里狸 | 稔 |
徳利持つ手に木の葉舞ひ散る | どん |
お手盛りもばらまきも言ふ選挙前 | みのり |
嘘か真か心して見よ | 玖那 |
秋立ちぬいよよその日の迫りくる | 稔 |
わが芋畑よき月夜なり | みのり |
鼻唄に虫楽しげな音をそへて | どん |
しばし憩はむ湯煙の里 | 善帆 |
(名残折 裏) | |
峠行く連歌師らしきうしろかげ | 稔 |
筆さらさらと書き残したる | 玖那 |
かの文はいかなる筋の手になるか | 善帆 |
つつめどもるる匂ひ気高き | どん |
組香のしつらへゆかし銀屏風 | 稔 |
夕影せまるいと長閑やかに | みのり |
花に酔ひ車返して見る帝 | たかし |
大和まほろば鐘霞む里 | 善帆 |